パリ大学院生活 at SciencesPo

フランス・パリ政治学院(通称SciencesPo)に在籍する大学院生のブログです!

フランス名物 - ストライキ

みなさんこんにちは。ぺんぎんです。

突然ですが、図書館に入れません。

 

なぜなら、学生運動が起こっているから。

 

フランスは、 ヨーロッパでも特にgrève(ストライキ)が多いことで悪名高い国ですが、まさか学校でも起こるとは。想像の上を行く国フランスです。(ちなみに、grèveという語は労働者が行う抗議運動のみを指す単語で、学生の場合はblockageという単語を使うそうです。)

 

つい先週も2,3日ほど、学生運動によって学校の建物が占拠されて、多くの学生が居場所を失い(ただでさえ勉強スペースが少ない学校なのに)、そして多くの授業が休講・日時変更されました。

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こんな感じ。

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普段学生が出入りしている黒い扉が閉まり、垂れ幕が掲げられています。いくつかメディアも取材に来ていたもよう。

 彼らの抗議の矛先は、マクロン大統領が現在行っている一連の改革です。大雑把に言えば、大学制度改革と移民法改革です。自分もあまり詳しいところまではわからないのですが、わかる範囲で、少しご説明しましょう。

 

大学制度改革

今まで、フランスの学生は、baccalauréatと呼ばれる高校卒業認定試験に一定程度以上の成績で合格した場合、国立大学への入学がほぼ保証されていました。基本的に、大学・学部の選択は自由で、応募数に応じて受け入れ人数を調整していたそうです。あまりにも入学希望者が多い場合はなんと、推薦書や高校の成績などは一切考慮されない抽選方式での選抜でした。

この教育制度の弊害として、大学入学者の脱落率の高さ(勉強する気はないけれど、何となく大学に入ったという学生が多い)、学士号保持者の就職率の低さ(全体の就職率よりも低いそうです*1)、職業学校への進学率の低さ(職業学校は大学などに比べて、ランクの低い学校として扱われています)等々、様々な問題が露見してきました。

そこでマクロン大統領は現在、La loi sur l'orientation et la réussite des étudiants(ORE法)という法律を導入し国立大学への入学に選抜方式を導入しようとしています。今回の学舎でのたてこもりはこの改革に対し、「選抜方式を導入することによって、経済格差で教育の機会を差別することになるので不公平。エリート養成主義の助長である」などといった主張をしています。

 

移民法改革について

現在フランス政府は、今までの移民法を改変し、より厳格な規定を施行しようとしています。内務省の言い分としては、現在のフランス移民法はEU法規定の要件よりもだいぶ緩やかであり、今回の法律改正によってよりEU法に近づけた(より厳格な)要件にするとしています。主な論点は以下の4つ。

 

難民認定手続きの迅速化

現在平均して約1年かかる難民認定手続きを6カ月に短縮するとしています。しかしこれによって、現在庇護希望者はフランス入国時点から120日以内の難民申請が義務付けられていますが、その猶予期間が90日に短縮されます。また難民認定裁判所(Cour nationale du droit d’asile - CNDA)から認定拒否された場合の再審請求期間も、認定拒否の時点から15日に短縮されました(現在は認定拒否後1カ月間)。これによって、庇護希望者の再審要求の権利が行使しにくくなり、本国送還の可能性が高くなります。また、一定要件を満たす人(紛争地域以外出身の庇護希望者など)に対しては、再審請求以前の本国強制送還も可能になります。

 

拘留期間の延長

行政的理由での拘留期間が現在の最長45日から、90日に拡大されます。

 

難民認定地点の再分配

現在は、庇護希望者が入国した地点で難民認定手続きが行われていますが、この法案によって、フランス政府が個人の難民認定手続きが行われる場所を指定できるようになります。これによって、現時点で難民が溢れかえっているイギリスとの国境カレーなどにいる庇護希望者をフランスのその他地域に移送し、難民認定を行うことができるようになります。しかしこの制度によって、既に家族がフランスに居住している庇護希望者などが家族と離れ離れになるなどの弊害が予想されます。

 

不法入国者への制裁

指定された入国地点以外から違法にフランス国境を越えた場合、最長1年の拘禁または最高3750€の罰金が科せられます。また、偽造書類を使った入国の場合、より厳しい制裁が科せられます。

 

その他にも、改善した点はいくつか(同性愛が原因の追放も考慮される等)ありますが、全体的にやはり、難民認定のハードルは高くなっています。

より詳しく知りたい人は、こちら

 

ということで、大まかに以上2点について、学生たちは抗議しているわけですが、一般学生のこのblockageに対しての反応は様々です。

  • (+)全国で拡大する学生運動に呼応して、マクロン大統領の出身校である「エリート校」Sciences Poが今回の制度改革に反対し、学生運動へのSolidarité(連帯)を表すことで、この問題の重大さを際立たせることができる。
  • (+)これはフランス国内のみに関わることではなく、他の国々にも関わる経済格差やエリート主義、教育の自由という理念の問題。
  • (ー)Sciences Poは、ENAやENSと同じように国立大学ではなくグランゼコールという部類の学校なので、入学試験が課されています。その難関試験を突破してきたSciences Poのフランス人学生が何故大学入学試験に反対しているのか。
  • (-)世界的に見ても、大学入学試験がないほうが稀なのではないか。
  • (-)Blockage参加者のフランス人学生の主張もわからなくはないが、ではフランス人学生より平均して5倍ほど授業料を払っている非EU学生への大幅に不公平な措置に対しては何故何も言わないのか。


このように、GrèveにせよBlockageにせよ、何かに反対するとき一致団結して行動を起こすのは、恐らく歴史的に見てもフランス人の血のせしめるものなのでしょう。個人的にも、これは一種の民主主義の方法だと思うので、このBlockage自体に反対しようとは思いません。

でも、今回のBlockageは約70人ほどの独断と偏見で決行されたもので、大多数の学生の意見が全く取り入れられていません。多くの授業が休講になったことで、多くの学生の予定が狂いました。また特に我々非EU学生としては、「フランス人よりも大幅に授業のためにお金を払っているのに、フランス人学生のせいで授業が受けられず、図書館も使えない」というのが、だいぶストレスのもとになっているのは確かです。

 

日本ではもはやあまり見かけなくなった学生運動、一概にいいのか悪いのか言えない難しい問題です。

 

それはとにかく、その後数日間、図書館は使えませんでした。

 

【参考資料】

 

(ぺんぎん)